ジェンダーレス美容師が「ジェンダーレス」をやめたい理由

<“ジェンダーレス美容師”をやめたいたけやんです>

こんなSNS(ネット交流サービス)のアカウント名が気になった。

今、ファッションや美容の世界で性差にとらわれない「ジェンダーレス」化が進んでいる。美容師にも固定観念にとらわれず、多様な人々の自己表現をサポートしている人がいる。「ジェンダーレス美容師」を名乗るたけやんさん(27)もその一人。だが「やめたい」とは、どういうことだろう。フリーランスのたけやんさんが活動の拠点とする大阪・中崎町の美容室に会いに行った。

「らしさ」にとらわれないスタイル
取材に訪れた日、美容室の前にはバイクがとめてあった。「最近、旅をしたくて買ったんです。いろんな人と出会いたくて」。色つきの眼鏡と赤色の髪がよく似合う。

「#ジェンダーレススタイル」、「#ウルフカット」。たけやんさんが「ヘアカタログ」として発信するインスタグラムには、<性別にとらわれないスタイルを>というコピー通り、「女らしさ」「男らしさ」にとらわれない客の写真が並ぶ。

例えば最近、注文が多いという「ロングウルフカット」。オオカミの毛先に似ていることから「ウルフ」と名付けられたこのスタイルは、頭頂部から襟足にかけて丸みを帯びたカットを施し、肩の下まで伸ばした髪にレイヤー(段差をつけるカット)を入れて仕上げる。

美容室では「メンズカット」「レディースカット」と、料金だけでなく、カット方法も性別によって分かれているのが「普通」だ。同じショートスタイルでも「メンズカット」では表面やサイドの髪を短くしたり、刈り上げたりして毛先に動きを出す一方、「レディースカット」では表面の髪の長さを残し、重みや丸みのあるスタイルに仕上げることが多い。

たけやんさんが提案するスタイルはこうした慣例にとらわれず、要望を柔軟に受け入れて人気を集めている。

店に訪れる客は、さまざまだ。単に見た目を変えたい人もいれば、MTF(男性として生まれ性自認が女性)やFTM(女性として生まれ性自認が男性)のトランスジェンダー、性自認が定まっていない人など、LGBTQ(性的少数者)の人々も少なくない。

たけやんさんは「美容室でセクシュアリティーについて話せたのは初めて、と言われることも多いです」と語る。

「勇気が出ない人のサポート役」を
ジェンダーレス美容師を名乗るようになったのは、きっかけがある。

小さいころから…