政府のマイナ保険証導入で閉院決めた歯科医の事情と意外な結末

政府のマイナ保険証導入方針により、閉院の時期を早めた歯科医がいる。読み取り機器の購入やインターネット環境の整備などで費用がかかり、個人情報のひも付けミスなど相次ぐトラブルで業務の負担が増える懸念があるためだ。25年にわたって地域医療を支えた歯科医院を来夏にたたむ決意をした男性歯科医(65)に去来する思いとは。

千葉市の中心街から車で20分ほど離れた閑静な住宅街に歯科医院は立地していた。クリーム色をした外装の2階建て。「私の家はここから50メートル先にあるんですよ。ご近所さんが患者さんなんだよね」。男性はこう教えてくれた。

千葉市出身の男性は国立大歯学部を卒業し、駆け出しの歯科医として10年近く別の歯科医院に勤務した。そこで「一人前」となり、生まれ故郷に近いこの地で開業。「駅前のごちゃついたところではなく、市街地から離れたところで、地に足を着けてやりたかった」と振り返る。

地域密着をモットーに、毎月300人ほどの患者を診察する。初診や飛び込みの患者はほとんどおらず、顔見知りばかり。乳幼児の歯科検診や高齢者宅への訪問診療にも汗を流し、顔の見える関係を大事にしてきた。

「10分診察して、20分世間話を聞くことがある。歯科医として『それでいいのか』と思われるかもしれないが、心のつながりが地域医療の良いところだ」とやりがいを熱く語る。

そんな男性が引退を意識し始めたのは50代のころ。視力が衰え始めたからだ。かかりつけの眼科医から「診療に問題はないが、酷使しないように」と告げられた。今後の加齢による体力の限界も考え、引退の時期を「68歳」と決めた。

しかし、そんな男性の意思を揺さぶる大きな変革が突如として襲ってきた。…